2014年に発足し、「和食“鍋焼うどん”」×「伝統芸能“落語”」の魅力を多くの方々に伝達していくことを目指した文化啓発活動である『キンレイ心染プロジェクト』の卒業生インタビューページです。
第三十三回は東京大学落語研究会より心染プロジェクトに参加した、古今亭菊正(ここんてい きくまさ)さんにキンレイ心染プロジェクトや落語研究会での思い出、現在の活動について語って頂きました。インタビュアーはキンレイ心染プロジェクト卒業後、プロの漫才コンビ「まんじゅう大帝国」として芸能事務所(株式会社タイタン)に所属し活躍している田中永真さん・竹内一希さんです。
田中 今回は僕の同期の学年で、東京大学を卒業後、プロの落語家として活躍されている古今亭 菊正さんがこのインタビュー企画に出演してくれています。
菊正 ありがとうございます。久しぶりだね。
田中 そうだね
竹内 この前インタビューに出演した僕と同期の雛菊とは、入門時期はどれくらい違うんでしたっけ?
菊正 1年くらい違うかな?大学院まで行ったから、その分の時間もあるけど、落語界では入門時期で上下関係が決まるから、学生時代の先輩後輩は一切意味がない!
竹内 じゃあ、雛菊は菊正さんの姉さんになるんですね。
菊正 そうそう。同じ“古今亭”だから、直系だね。
竹内 そもそも心染プロジェクトにはどういう経緯で参加したんですか?
菊正 心染プロジェクト発足した大学3年生の時に連絡があったんだけど、その当時は学業の方でバタバタしてて、実際に参加したのは4年生からだったと思う。
田中 あ、そうか。それで僕らが初期メンバーとして参加したんだった。
竹内 どんな活動に参加してました?出張落語会とか、小中学校での食育・出前授業とか。
菊正 僕が参加した頃はまだ食育・出前授業っていうのはなかったと思う。一番覚えているのは、それこそ、雛菊姉さんと一緒に足柄郡(神奈川県)が主催する敬老会のイベントに出演させてもらった会かなあ。物凄い広い会場でやらせてもらって。そうそうこの会場!
↑2015年9月21日 開成町福祉会 (神奈川県足柄郡)での「出張落語会」にて『道灌』を演じる菊正さん
田中 え!?めちゃくちゃデカいじゃん!
竹内 一番前のお客さんまで遠いですね(笑)!ただ学生時代にこんなに立派なところで落語が出来たのは良いですね!
田中 ネタはなにやったの?
菊正 確か『道灌(どうかん)』だったと思う(笑)。羽織なんか着ちゃって(笑)。
田中 ああ、この写真だ。おお、脱いだ!
↑羽織姿の菊正さん
菊正 プロになってウチの師匠(古今亭 菊太楼師匠)から「なんでそんなに羽織脱ぎ慣れてんだよ!」ってちょっと怒られた(笑)。
田中 確かにちょっと可愛くないかもね(笑)。
菊正 あと、山本先生に落語について色々と教わる「落語サロン」はよく参加させてもらったと思う。竹内が落語やってなかったっけ?
※山本先生:能史研究家・落語研究家としてキンレイ心染プロジェクトが始動した2014年からご意見番としてお力添えいただく。
竹内 そうですそうです(笑)。今にしてみれば恐いもの知らずも良いところですが(笑)。
菊正 うわ、僕汗びっしょりだ!
田中 本当だ(笑)。真夏に走ってきたのかな(笑)。この写真を今回載せるのは、ちょっとやめておこう(笑)。
菊正 この落語サロンには何度か参加して山本先生から落語について貴重なお話しを聞くことができたなぁ。
田中 落語をやるのもだけど、聴くも好きだったもんね。そもそも東大落研で落語やる人って少ないよね?
菊正 うん。ただ漫才とかコントとかお笑いをやる人の方が多いかな。部員は40人位いるけど、落語をやる部員は4年に一人くらいかなあ。そういう人が、落語のDVDとかの資料を部室に集め出したりして。僕は部室に落語200席のおススメの音源と演目リストを作って残したんだよね。
田中 古典落語がそもそも200くらいじゃない?網羅してるじゃん(笑)。
菊正 で、その中でも所作が難しい落語リストとか、学祭の公演でウケる演目リストを作って残したんだけど、数年後に東大落研の公演に顔出した時は、僕が選んだウケやすいネタしかやってなかった(笑)。
竹内 落語家にはいつなろうって決めたんですか?
菊正 大学院に進んでからだけど、一応就活はしたんだよね。
田中 あ、就活してたんだ!
菊正 うん。内定もいくつかもらえていたんだけど、最終的に辞退して。
竹内 そこから入門したんですね。菊太楼師匠も東大院生が来てビックリしたんじゃないですか?
菊正 どうだろうね。学歴云々の世界じゃないから、最初に今の師匠に会った時には内定をもらえていたので、その話もして「ああ、そうかそうか」って。
竹内 これまでも、落研出身でプロの落語家になった人には聞いているんですけど、落研時代にやっていた落語とプロになってやる落語って違いますか?
菊正 全然違うね。やっぱりお客さんがお金を払って観てるっていうのが大前提だから、最初はそのギャップに飲まれたよ。
竹内 責任感みたいなことですかね?
菊正 うん。だんだん慣れてくるんだけど、最初は面食らったなぁ。落研の時にやってた落語って自分で好き勝手やってよかったじゃない?入門してから前座の頃は「オーソドックスにきっちりとやりなさい」って徹底されたね。前座の間はウケなくても怒られない唯一の期間だから変な癖が付かないように、落研でやってたような落語は一切忘れてやってたかな。ただ 二つ目に昇進すると今度は自分で稼がないといけないから、少し自由に工夫してやってるけど、落研の時にやってたようなアレンジとは考え方も全然違う。
田中 ああ、そうかもね。突飛な事をするんじゃなくて、前座期間で練り上げた型をベースにどれだけオリジナリティを入れていくかみたいな?
菊正 そうそう。
田中 二つ目に昇進してみて前座の時と変わったこととかある?
菊正 一番大きいのは絶望感かな(笑)。録音してた、前座の時の自分の高座を聴くと「あれも違う、これも違う」って感じだったんだけど、二つ目になってから自分の高座を聴いて、ガクンとへこんじゃった。真打の師匠と比べるといかに自分がダメかがより明確にわかるようになって、プロの世界に身を置いていて戦えてもいない感じ。落ち込んでたら、先輩が「お前は一週間前まで前座だったんだから」って言ってもらえて、ちょっと楽にはなったけど。
竹内 プレッシャーもありますもんね。二つ目になると師匠に落語を見てもらえる機会ってあるんですか?
菊正 あんまりないかなぁ。寄席の楽屋のモニター越しに見られていることはあるけど。終わったら怒られたりね(笑)。
田中 師匠からは何席教わるの?
菊正 見習いの時に『子ほめ』『転失気』『まんじゅう恐い』『真田小僧』『たらちね』の5席を教わった。
田中 あ、見習いの時から教えてもらえたんだ。
菊正 前座になっていきなり高座に上がるから、臨機応変に対応できるように。寄席の夜席の出番だった時に昼席であったネタと被っているからできませんってことがないようにバランスよく教わった。
田中 あ、昼席と夜席でもネタは被っちゃいけないんだ。ネタが被っちゃいけないのは知ってたけど、そんなに厳しいんだ!
菊正 極力ね。
竹内 自分の師匠から5席も教わるって多い方ですよね?
菊正 多いかもね。あとはよその師匠に教わるのがほとんどだと思う。でも、二つ目に昇進してからは、前座の時とは違う目線で色々教えてもらえるようになったと思う。最初は基本的なことを事細かに教えてもらってたんだけど、二つ目になってからは所作とか描写とか今の自分に足りてないところをピンポイントで教えてもらえるようになったかなぁ。
田中 ちゃんと成長を見極めて教えてくれている感じがするね。落語界の師弟関係って感じがする。
竹内 前座の時は住み込みじゃなくて、通いだったんですよね?
菊正 そうそう。家のことを手伝ったりしながら、お昼とか夜は師匠の家で一緒に食べることが多いかなぁ。師匠の家に行かない時は自分で作ったりしないといけないから、キンレイさんとか冷凍食品にはお世話になってるよ!
田中 2月に喜多方ラーメンが商品化したんだよね。「お水がいらない 喜多方ラーメン坂内」と「カドヤ食堂つけそば」の2つが新商品。
菊正 おお!家の近くのスーパーとかでキンレイ商品は見かけるから探してみる。「お水がいらない ラーメン横綱」とかすげー好きだったもん。学生の時は僕らがやる公演にキンレイさんから差し入れをいただけたりして、嬉しかったなぁ。
田中 そうだそうだ。各落研が集まってやる会だっけ?
菊正 うん。落研を応援してくれるなんて!って思った!
田中 心染プロジェクトに参加してたメンバーからも落語家になる人も増えてきてるし、今後より盛り上がっていくと良いね。
菊正 そうだね。落語家だけじゃなくて、お笑いに行く人も増えているもんね。就職先は人それぞれだと思うけど、どんな仕事も人と話すことから始まるから、落研にいた人は一つ有利だろうね。あとは、言いたい事を的確に編集する能力が高くなるから、就活の時のプレゼントかグループディスカッションとかは上手くなるだろうね。時間配分とか。
竹内 ああ、相手のことを考えて話せるようになるとかってことですかね。
菊正 そうそう。あとは声がデカくなるのと人前で話す度胸が付くよね。とにかく、落研に入って落語をする人は元々、喋りが上手いってことだね!
竹内 菊正さんからそんなことを言ってもらえたら、現役生の励みになりますね!
【古今亭 菊正さん プロフィール】
2016年に東京大学教養学部教養学科卒業。2019年に東京大学大学院総合文化研究科 超域文化科学専攻比較文学比較文化コース修士課程卒業。2017年に一般社団法人落語協会・真打 古今亭 菊太楼に入門し、2019年に前座となる(前座名・菊一)。2023年2月に二ツ目に昇進し「菊正」に改名。
・プロフィール(落語協会HP)
・公式twitter
・出演情報:プロフィールより最新の出演情報をチェック
【インタビュアー:まんじゅう大帝国 略歴】
株式会社タイタン所属の漫才コンビ。2016年6月コンビ結成。2017年4月デビュー。大学時代は互いに落語研究会に所属し、学生落語の全国大会で優秀な成績を残す。2017年4月に株式会社タイタンに所属しデビュー。フジテレビ系『ENGEIグランドスラムLIVE』『ネタパレ』などに出演し注目を集める。
【その他、受賞歴等】
- 国立演芸場 令和元年度「花形演芸大賞」 銀賞受賞
- フジテレビ「ENGEIグランドスラム」「ネタパレ」
- WEB CM パイロットコーポレーション フリクション「ネタ帳」
- MV ゼスプリゴールドキウイ「アゲリシャス」
- TBSラジオ「マイナビラフターナイト」月間チャンピオン(2017年6月/2018年11月)
- 第3回未完成映画予告編大賞「MI-CAN男優賞」(竹内一希)
- 2020年1月29日より、初のDVD「詰め合わせ」発売。
- 2020年10月7日より、第一回単独公演DVD 「私の番です。たしかにね。」発売。
- 竹内一希さん主演映画『実りゆく』が2020年10月9日(金)に新宿武蔵野館ほか全国の上映館で公開。「第63回ブルーリボン賞」作品賞にノミネート。2021年4月28日よりDVDが発売。
- 初の単行本『笑いの学校』が2020年12月19日(土)に河出書房新社より発売。
- 2021年10月9日放送の『オールナイトニッポン0(ZERO) ~決戦!お笑い有楽城~』にて優勝。
- 『まんじゅう大帝国のオールナイトニッポンPODCAST』が配信中。
- ・まんじゅう大帝国・竹内出演の動画「落ち込みすぎな失恋ソング 『失恋すると人は何も手につかない』」が 第9回BOVAグランプリ受賞
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